□予選リーグ 第1試合(9月21日 07:00〜08:30)・第2試合(9月21日 09:00〜10:30)上流エリア


29代目の所有者を待つJAPAN CUP
 全国初の大雨特別警報が福井県全域に出された台風18号から1週間が経とうとする福井市には、増水後の九頭竜川の状態を危惧しながら全国各地から精鋭の鮎釣り師24名が集結した。選手たちが目にした九頭竜川は、水位は落ち着きつつあるもののいまだ平水時よりは30cm上高いうえに、ダムからの濁りがまだまだ取れていない状況で、まさに激流となり選手を手荒く歓迎する様相であった。この状況をどう戦うのか。皆が不安を抱えつつ前夜祭を迎えた。

 前夜祭の会場は福井国際観光ホテル リバージュアケボノ 「曙光(しょこう)」の間に於いて、東村新一福井市長、松本文雄永平寺町長、九頭竜川中部漁業協同組合吉田廣秀代表理事組合長らを来賓に華々しく開催された。 
 選手は入場の際にゼッケン抽選を行う。ジャパンカップ全国大会では予選リーグを各6名で6試合行うが、1、2試合目、3、4試合目、5、6試合目をそれぞれ同じメンバーで戦うこととなる。ゆえに最大でも15名の選手との対戦となり、予選リーグでは顔を合わさない選手も出てくるわけだ。この組み合わせの妙が勝ポイント制予選リーグの行方に大きく関わってくるので、選手にとっては非常に興味津々となる。 
 昨年度チャンピオンの小沢聡選手の乾杯でスタートした宴では各選手のプロフィール紹介や福井名産に彩られた料理にアルコールも進み、大いに盛り上がった。しかし宴も終わりに近づくと選手たちはすでに勝負師の顔に戻り、明日への想いを昂らせながら会場を後にしていった。
 選手の去った会場では、29人目の所有者を待つ金色のジャパンカップが静かに輝いていた。

全国2,500余名の頂点を決める戦いが始まる。

 大会当日は実に慌ただしい。6:20に五松橋下の大会本部に集合した選手たちは、川を見る間もなく各ブロックへ出発していく。それにスタッフやプレス関係者、選手の応援者の車列が続く。オレンジ色の朝日の中、乾いた河川敷の未舗装路から砂煙がもうもうと上がり、いよいよ始まるな、と観る立場の者でも緊張が走るのだから、選手たちの気持ちたるや如何許りのものかと考える。

 ここで予選リーグのシステムを簡単に説明しておく。1試合90分の試合を大会1日目にを4試合、2日目に2試合行う。各試合は24名の選手を6名づつのA〜Dブロックに分けて行う。前日の抽選で戦うブロックと入川順は全て決まっている。6名の選手の入れ替えは2試合ごとに行われる。例えば1試合目にAブロックを戦った6選手は2試合目はBブロックで入川順だけ変更になって再度同じ選手と戦う。
 同じようにCブロックとDブロックも交代する。3試合目と5試合目は各ブロックの選手が変わるわけだ。そしてブロックだが、今回の九頭竜川では、川のキャラクターが変わる「鳴鹿大堰」の上流部と下流部でそれぞれA〜Dブロックを設け、合計8ブロックとなる。 

 予選リーグの順位はポイント制だ。各試合、ブロックごとに6名がポイントを分ける。1位が6点、6位が1点だ。同匹数の場合はポイントを分けることになる。例えばトップタイが3名の場合は6+5+4の15ポイントを3人で分けた5ポイントを獲得する。
 ポイントの次が占有率と言って、その試合の総釣果のうち自分の釣果がどれだけの割合を占めたか、のパーセンテージを付けていく。同ポイントの場合は6試合の平均占有率が高い選手が上位となる。例年であれば決勝に進める上位3名に入るには27ポイント前後が必要になってくる。1試合平均なら4.5ポイント、2位3回、3位3回なら可能性が有る。しかしながら6試合をまとめるのは非常に難しい。逆に言えば強者が集うこの大会で6試合をまとめた者は真の実力者の証となる。システムは複雑に見えるが、要はその時、その場所で如何に他の選手より多く掛けるか。それだけだ。
 各試合のインターバルは非常に短く、選手たちは息つく暇もない。1日目は1時間半の試合を4試合、計6時間にもなる。また今回のブロック設定は非常に広くとってあり、水量も多いので選手の移動による疲労度はかなりのものだろう。如何に集中して4試合を戦い抜き2日目につなげるのか。

増水した瀬に活路を求めた塚本選手だったが。
 選手を乗せたバンの後を追い上流の勝山漁協との管轄境界にほど近い市荒川大橋を通って上流A、Bブロックへ向かう。橋より上流は濁りがほぼ取れているが、左岸から流れ込む市荒川発電所の放水口から濁流が流れ込み、ここより下流はささ濁りとなっていた。右岸側は濁りが薄いが、おとり配布が左岸で、この水量では右岸へ渡ることは不可能なため、選手はこの濁りの中を探らねばならない。ちなみに今大会では川切りは選手の判断に委ねられていた。

 第1試合開始予定の7時少し前におとり配布が行われる。おとりはメスを中心に用意してあるようだ。ややぽってりした感じのおとりが多く、九頭竜の激流にいきなり馴染ませるには工夫が必要だろう。おとり配布後、10秒のインターバルを取って6選手がスタートする。開始まではやや余裕があるので、この状況下では川を見たり、実際に石を手で触って垢の状態を確認してポジションを調整する選手が多かった。下見

増水、濁り、残り垢狙いの定石通り分流チャラから開始した八木沢選手。
の条件とは全く違うが、濁りで川相も分かりにくいため、下見は川を知る、と言う意味では非常に重要だったのではないだろうか。
 朝の気温は19.5℃、水温は14.0℃しかない。ABブロックのおとり配布場所で計測したが、ダム放水の関係でこの場所は特に低いようだ。予選リーグは6試合の長丁場だが、この1試合目は流れを掴むうえで非常に重要だ。

 だれもがこの第1試合は気力、体力も十分で集中して挑む。ここ数年の第1試合リザルトでも2010年優勝の君野選手が1位、2011年準優勝の伊藤選手が2位、3位の猿渡選手が1位、2012年準優勝の八木沢選手、3位の楠本選手ともに1位を獲得している。この事実から見ても如何にこの第1試合が重要かが分かる。これは今年も同様だった。結果を先に述べることとなるが、予選リーグベスト3に入った松田、塩野、三嶋の3選手ともこの重要な第1試合で1位を獲得したのだ。
そしてその中でも三嶋選手だけが単独1位を獲得していたのだ。これは翌日の決戦の行方を暗示していたのだろうか。

高尾選手は大石の残り垢を狙う作戦に出た。

初戦は誰もが手探り状態からのスタートだった。松田選手も廻り
を伺って移動のタイミングを計る。             

加藤選手も得意な瀬で勝負に出たが、薄い反応に周りが気になる。
〈第1試合 Aブロック〉
 福井平野独特の午前中は山から吹き下ろしの強い乾いた風の中、エアホーンが鳴り響き決戦のスタートが切られた。第1試合はAブロックから順に観ていった。
 誰もが一番迷うスタートのポジション取りは、分流や中州にからむ流れの脇を狙えるポジションを選んでいた。各ブロックともかなり広くとってあるので流れに対し縦には比較的自由に選定できた。但し横へはほとんど動けない。ヘチや岸に立ってまずは岸際を狙う選手が多かった。

 Aブロックでは残り垢ポイントをうまく見抜いた斉藤選手が込6匹として同率1位を獲得し幸先の良いスタートを切った。その少し上では放水口下の分流に入った塩野選手が苦労していたものの残り30分ほどで2匹目を掛けると続けざまに3匹目、4匹目を掛け1位を獲得した。塩野選手はここで今回の九頭竜川を攻略する何かしらのパターンを掴んだようだ。八木沢、東選手は早めのピッチで移動しながら探っていたよう

小沢兄弟の影を追ってここまで来た盛合選手。センスは光るものが
あった。若い選手は全国を経験して飛躍することが多い。
だが込4匹とするのが精一杯だった。楠本選手、塚本選手もパターンを掴むに至らず込3匹と苦戦した。楠本選手は最後までこの試合が効いてくることになる。塚本選手は得意な瀬をおもりで丁寧に攻めたが反応は薄かった。攻めていた、分流が本流と合流する手前の大きな波立は非常に有望に見えたのだが。
 Aブロックの合計釣果は26匹であった。

〈第1試合 Bブロック〉
 それよりも更に厳しかったのがBブロックだ。合計釣果は24匹。3匹掛けた島、松田、高尾選手が1位を分けて5ポイントを獲得した。
 島選手はおとり配布場所からすぐ下の瀬肩に陣取った。開始すぐさま1匹目を取り込み、突っ走るのかと思わせたが、瀬を攻めるには心もとない鮎だった。良いおとりが取れたら攻めに転じようと我慢の釣りをしていたが、残り15分となっても状況は打開せず、攻めに転じたところ、2匹を掛け1位を分けた。攻めのタイミングを逸したのか。

島選手が立つ下流には九頭竜屈指の瀬が誘っていたが、攻めるタイミングを逸してしまった。
 島選手の下流瀬肩は初めて見る者には絶好のポイントに見える。そこに陣取っていたのは加藤選手だ。タモを肩に差し果敢に攻めていったが朝の九頭竜川は応えてくれなかった。
 その下流に望月、高尾、松田、盛合選手が並んで入っていた。やや立ち込んで沖を攻めていた高尾選手が早々に掛けたものの続かない。のちに高尾選手がこの時の坂東島を「アマゾン川のようでどこを釣って良いのか全く分からなかった」と例えていた。まさにその通りで、石も深さも把握できず、轟々と流れ下る瀬は太刀打ちできるものではなかった。 同様に判断したであろう松田選手は、岸に立ちヘチを探っていた。しかし3度の根掛かりを喫してしまう。全て回収はしたものの、普通の選手であればこれで大きくリズムを崩してしまうものだ。しかし何の焦りを見せることもなく、松田選手は上流へ移動した。後で聞くと島選手が入った場所は認識しており、瀬に移動してこないので掛かっているのだろうと判断し、瀬からトロへと移動し3匹掛けて1位を獲得したのだ。
 高尾選手はそのアマゾン川のような瀬に果敢に挑み、穂先を上下に動かし、おとりを丁寧に操り、その動きから石の状況を察知し掛けていた。1位を獲ったのはさすがと言うしかない。

第1試合から攻めの姿勢を見せる塩野選手。試合を重ねるごとに
強くなっていく。

〈第1試合 C、Dブロック〉
 C、Dブロックは浄法寺橋から尾崎おとり店までの専用区だ。Cブロックで好スタートを決めたのは三嶋選手。後の戦いぶりから考えるとトロ場をうまく捉えたと思われる。同じようにこの状況をうまく捉えたのが玉木選手だ。三嶋選手に続く込11匹で2位を獲得した。3位に甘んじた小澤剛選手はのちに、この第1試合で三嶋、玉木選手に釣り負けたことが敗因となった、と語っている。
 Cブロックは第1試合で最も釣れたブロックで、合計45匹だった。この「釣れる」ブロックで釣り負けたのは大きなダメージだったようだ。釣果を伸ばせなかった遠藤、森永、横山選手は瀬を攻めたのだろうか。浅場や瀬はかなり難しい状況だったと思われる。

 Dブロックでは注目の小沢聡選手が一人気を吐き2位に3匹差をつけ込9匹でトップだ。尾崎おとり店上流に広がる広大なトロ瀬の岸際で掛けた。このブロックは川幅が広く、流れもややブレーキが掛かるようで、垢が比較的残っているようだった。残っているがゆえに鮎は広範囲

状況に合わせた柔軟な釣りが武器である斉藤選手。第1試合を1位発進としたが。
に居て、その中で密度の濃い場所を探り当てられるかが釣果の差となった。他は大きな舞台を幾度となく経験し結果も残している井上選手が穴のない釣りで込6匹で2位、ベテランの志賀選手も同じく2位と食い下がった。
 沓澤選手は取りこぼしがあり4位発進だ。大会に「たら」「れば」は無いが、沓澤選手はここでもう1匹掛けていればプラス1ポイントとなり予選リーグ3位の成績を得ていたことになり、その心中たるや察するに余りある。高木、矢吹両選手はパターンを掴みきれなかったか。
 Dブロックの合計釣果は34匹だった。1試合目の総釣果は129匹とやはり厳しかった。

インストラクター選抜として十分な戦いぶりを見せた沓澤選手。

〈第2試合〉
 第2試合のおとり配布頃になると強い日差しが選手たちに降り注ぎだした。気温は一気に28度まで上がったが、水温は15.5℃といまだに低い。風は強いものの日差しが強くなるにしたがって弱まるはずだ。状況としては上向くのではないかと皆が期待した。




初参戦でこの九頭竜川の状況は過酷だったに違いない。本来の九頭竜川であれば父譲りのおもりを使った瀬釣りが輝いただろう矢吹選手だった。
 第2試合ではDブロックが良く釣れていた。尾崎おとり店上のトロ瀬、高圧線のやや上で玉木選手が入れ掛かりを演じていた。その少し下流でも横山選手が第1試合のうっ憤を晴らすように掛けている。それよりさらに上流では三嶋選手が岸から10mほど立ち込み、岸側を向いて釣っていた。バレもあるようだが着実に数を稼ぐ。
 尾崎おとり店前に入った小澤剛選手は、沢山のギャラリーの前でいきなり根掛かり放流しマイナススタート。第1試合の不調をまだ引きずっているのか。玉木選手は楽しみながら16匹、横山選手が玉木選手に続き12匹と良く掛けた。三嶋選手はここで小澤剛選手と3位を分けた。ここでの0.5ポイントは三嶋選手にとっても小澤剛選手にとっても、さらにこの大会自体にも大きなポイントになった。

増水の九頭竜川では選手の写真は背中からのものが多いが、唯一三嶋選手だけが正面からの写真も多い。多様な攻めを展開した証拠だ。
 Cブロックでは井上選手が調子を上げて込10匹で1位を獲得、高木選手も釣りが合ってきたようで2位を獲得した。服部おとり店下の瀬尻に入った沓澤選手は開始後すぐに居つきと思われる黄色い良型を取り込み良いペースで3匹まで掛けた。しかし今回の九頭竜川では黄色い鮎ばかりで釣果を稼ぐのはかなり厳しかったようだ。ここでもあと1匹が出ず志賀選手と3位を分けた。第1試合で良いスタートを切った小沢聡選手はここで足踏み。これが最終的には効いてきた。

 Bブロックでは楠本、八木沢の両シード選手が本領を発揮して1位、2位を獲得、このまま午後に繋げられるか。ここでも手堅く3位を獲得した塩野選手、セミファイナル東日本を2年連続1位で上がってきた実力は決してフロックではない。瀬での引き釣りを得意とする塚本選手もこの状況ではお手上げのようだ。本来の九頭竜川であれば、と大自然の気まぐれを恨んだ一人だろう。
 1位スタートを切った斉藤選手も波に乗り切れなかった。セミファイナルでは周りの状況を見ながら組み立てた釣りが見事だったが、今回はその状況を判断する材料が少なすぎた。

地域と共にある九頭竜川。今大会でも試合中は竿を置いてくれる方々が多く感激した。さすがは中部の名川である。

当然のように掛ける王者小澤剛選手だったが、序盤で三嶋選手、
玉木選手に釣り負けてしまったことが今大会の流れを悪くした。

横山選手が暴れまわる状況ではなかった九頭竜川だったが、師譲りのナイロン糸による繊細なおとりコントロールで掛けていった。
 
ここまで来る選手たちは、パターンさえ掴めば一気に釣果を伸ばす
技術を持っている。序盤でトップに立った玉木選手もそうだった。

選手たちはどの試合も検量が終わるまでは様子が分からない。全ての選手が注目する。第2試合トップの井上選手の検量に注目が集まる。
 Aブロックでは第1試合で斉藤選手が釣った付近を攻めた高尾選手が一時入れ掛かりを演じ込12匹として連続の1位を獲得、松田選手もその釣りを見ながら無難に組み立て込9匹で2位を獲得した。
 浅めのザラ瀬は垢が残っているように見えたが、出水前はチャラであっただろうポイントには鮎が入って来ず盛合、加藤、望月選手は苦労していた。垢が残っているようでも出水前に垢腐れ気味だったところには鮎は付かない。
 第2試合の総釣果は169匹となり結果1日目の最大釣果となった。この「釣れるとき」にきっちり釣ることはリーグ戦では非常に重要だ。実力者の島選手、小沢聡選手、小澤剛選手はここで釣り負けて3位以下となり、釣れないと予想される下流エリアの中盤戦を絶対に落とせない戦いとなった。逆に手堅く3位までにまとめた高尾選手、松田選手、塩野選手、井上選手、玉木選手、三嶋選手はより戦略的に中盤戦を迎えることができる。

良く掛けていた横山選手。心地よい緊張感で検量を見守る。

 第2試合が終了すると一旦大会本部へ戻り、短い昼食休憩となる。選手は道具を傍らに置いて味わう余裕もなく弁当を掻き込む。食べきらないうちに第2試合終了時点での暫定順位表が張り出され選手たちが駆け寄る。
 上から玉木、高尾、井上、松田、三嶋、塩野、八木沢、小沢聡、志賀、楠本選手と続く。トップの玉木選手が11ポイント、釣果も27匹と圧倒的だ。10位の楠本選手までが3.5ポイント差のなかにひしめく。残り4試合あるのでこの時点では「暫定」でしかないが、今後の流れを決める重要な場面だ。さて午後の厳しい下流エリアをうまく切り抜けてくるのはどの選手か。中盤戦に進む。


序盤を制した玉木選手。仕事の関係で各地の河川へ赴くそうだが、それが功を奏したか、判断の難しい九頭竜を攻略できた。